日本脱カルト協会

 

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書評 「マインド・コントロールされていた私」

著者 南哲史

書名 マインド・コントロールされていた私:統一協会脱会者の手記

出版社 日本基督教団出版局

 ここ数年の「統一協会問題と「オウム真理教」事件によって、マインド・コントロールに関する本が、何冊も出版された。そのいずれもカルト問題に深く関わって来られた、学者・宗教家・弁護士・ジャーナリストによって書かれたものだけに、説得力がある。しかし、著者自身がカルトのマインド・コントロールを受けた体験をもち、しかも体系化された本となると限られたものしかない(本の一部分を占める脱会者の手記や、オウムの何人かの脱会者が書いた体験談は別にして)。私の知る限りでは、統一協会の脱会者であるスティーヴン・ハッサンの『マインド.コントロールの恐怖』(恒友出版)と、ヤマギシ会の脱会者である大峰樹の『マインドゲーム』(雲母書房)の二冊であろう。脱会後、心理学者と文筆家となってから書かれたこの二冊は、別格である。しかし、南さんのこの書は、推薦のことぱ」を記した浅見定雄氏が指摘されているように、.マインド・コントロールの優れた解説書となっている。

 本書は8章からなり、勧誘から教え込み、脱会から脱会後の後遺症に至るまで、実に冷静な目で自身の体験を分析している。私も十年近い間、二百人を越える信者の救出カウンセリングに携わって来た。そしてその内の多くの人たちに自身の心の整理のために、脱会後の手記を書くように勧めて来たが、これほど冷静に自身の体験を、分析出来た人はいなかった。これは単に、著者の文筆力の右無だけではなく、脱会後の苦しみの中で、逃げ出さずにこだわり続けた結果であろうと思う。

 統一協会のマインド・コントロールの凄まじさは、著者自身も指摘するように徹底的な情報操作にある。霊感商法等、信者がハードな仕事に身をすり減らして、金集めに駆り立てられるのは、「文教祖が日本をサタン国家から戦後、神側のエバ国家に指名したから経済大国になれたと信じ込まされているから」(1OO頁)である。私自身、この愚かしい屁理屈を、何十人もの信者たちから聞かされてきた。日本が経済大国になれたのは、憲法九条が存在したため、アメリカのように軍事費に、莫大な金を使えなかったからという当たり前の理屈が分からなくなってしまう。

 これは笑えても、次のことは笑えない。「マインド・コントロールのもとでは、これが好きだと思うこととすらできませんでした、自分の感性や直感に忠実であることを許されません。…信者の感受性をつぶしてしまわなければ、合同結婚式でアカの他人同士を結ばせることなどできはしません」(113頁)。好みや感性までコントロールされた生活を、続けさせられた元信者たちが、脱会直後にレストランのメニューを見つめる時間の長さに、何度胸を締めつけられる思いをしただろうか。

 人によっては、良いマインド・コントロールと悪いマインド・コントロールがあると言う。しかし、良いマインド.コントロールと呼ばれるものは、セルフ・コントロールとか、自立訓練法とか、心理療法という概念ですでに呼ばれている。ここ数年で日本の社会に急浮上したマインド・コントロールという概念は、社会心理学者の西田公昭氏が指摘するように、「破壊的カルト」と呼ぱれる組織集団が行う精神操作の技術に限定して用いるべきだと思う。そしてカルトの用いるマインド.コントロールは、不気味で異様な秘儀ではなく、ごくありふれた社会的影響力の集大成によって出来ていることを、本書もまた、著者自身体験した重みで明らかにしている。

それ故に、箸者が警告するように、「私は大丈夫」という例外感覚で否定する人の、その感覚こそが危険であると言える。

(JSCPR理事・日本基督教団西尾教会牧師 杉本誠)

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