日本脱カルト協会

 

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声明文

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 本日、オウム真理教の教祖麻原彰晃こと松本智津夫被告に対する死刑判決が確定した。

 教祖松本の法廷は、破壊的カルト集団が犯した重大事件の指導者に対する審理として、ほとんど世界で初めての裁判であり、世界中が注目してきた。その裁判が、弁護人の控訴趣意書を期限内に提出しなかったという手続上の対応によって終了する。残念極まりない。

 しかし、教祖松本は、1988年から1995年まで弟子に命じて30人以上もの人の命を奪い、わけても化学兵器サリンを製造使用して無差別大量殺人まで起こした事件の首謀者であった。多くの人を悲嘆の淵に落とし、今も塗炭の苦しみを味あわせている。日本社会を恐怖のどん底に落とし、世界を震撼させた。この教祖松本に重い処罰が課せられるのは、当然である。

 教祖松本の責任はこれのみでない。教祖松本は、自らの欲望実現のために弟子らに諸々の犯行を実現させ、その結果、多くの信者らが重い処罰をうけ、わけても12人が死刑判決を受けるに至っている(一人は既に確定している)。このことこそ、破壊的カルト集団の指導者として特徴的な責任である。

 当協会は、この機会に、この12人については死刑判決としないよう、これが確定している場合は恩赦により減刑するよう、まして執行など絶対しないよう強く求める。

 言うまでもなく、死刑は究極の刑罰であるから仮にこれを存置する立場であっても極めて謙抑的であるべきこと言うを俟たないところ、下記の理由によりこの12人を死刑にすることは有害無益だと確信するからである。

 当協会会員らはオウム真理教事件につき、死刑を言い渡された者を含め、多くの実行犯らと接触してきた。法廷、拘置所、刑務所あるいは出所後、専門家あるいは被害者たる立場において、鑑定人、検察側証人、弁護側証人あるいは篤志面接として接触してきた。

 そのうえで改めて確言する。

 実行犯らにとって、教祖松本は、全宇宙そのもの、神以上の存在であり全ての衆生の「カルマ」を見極めて「前生も来生も支配する存在」であった。彼らは、教祖松本のいう「マハームドラーの修行」ないし「ヴァジラヤーナの救済」つまり宗教殺人として罪を犯した。

 彼らは、もともとなんら犯罪傾向のない「まじめな」若者であるし、犯罪行為をする可能性を知りつつ入信した者は一人もいない。このことは直接撒布したサリンによって8人も殺した林泰男被告に対する一審判決のいう「およそ師を誤まるほど不幸なことはなく、この意味において、被告人もまた、不幸かつ不運であったと言える」との記述から分かるように、実態を知るすべての者に明白となっている。

 かようなカルト性の高い集団での絶対的指導者である教祖松本の指示による犯罪について、右12人の命を奪う死刑を言い渡し、さらに執行することは、まったく正しくない。

 12人が実行犯となったのは、教祖松本による巧みな心理操作のテクニックを集積して体系的に使ったマインド・コントロールのメカニズムと、LSDや覚せい剤まで使った洗脳によってであった。ここに破壊的カルト集団たる重要な特質がある。だからこそ、教祖松本の桎梏から解かれた者は、呆然とし激しく自己嫌悪し自己の身を焦がす。いまだその桎梏から解かれない数人も、やがてその時期を迎える蓋然性がある。このような12人を死刑にして、いったい何の意義があるだろうか。

 12人を死刑にしないでおいてこそ、オウム真理教とその事件の本質はより深く解明される。教祖松本は、かかる事件を起こした動機を今後とも話さないだろう。この解明は実行犯らの様々な事柄でのより詳細な供述、とくに自らと教祖を何度も振り返った上での言葉や自省が蓄積・整理されることによってのみ、なしうる。

 教祖松本の法廷では、マインド・コントロールや洗脳の実態が解明されなかった。これが明らかになれば、検察側として12人の死刑が重きに失することを知られてしまう不都合があるからであり、弁護側においても教祖松本の責任の重さがより明確になってしまうことを恐れたからである。この解明も、12人すべての今後一生にわたる言葉を得なくては実現できない。
 この日本で、この世界で、二度とかような破壊的カルトによる極悪非道の事件を起こさせないためには、是非ともこれらのことが解明され、広く知られなければならない。

 12人を死刑にしないでおいてこそ、今も残る教祖松本へのグル信仰を、極限にまで減らすことができる。事実、その何人もが、拘置所から今も残る信者に向けて、脱会のための説得活動をしておりその成果をあげている。未だ教祖松本に帰依する実行犯であっても本人が希望する通りに死刑を確定させ執行するならば、現在の信者らにとって文字通り先達たる殉教者になってしまうのであり、オウム真理教は無くならない。

 12人を死刑にすることは、日本の司法と司法行政が、破壊的カルト集団の本質を理解していないことを世界に示すこととなり、日本の歴史に重大な禍根を残す。

 12人を死刑にすることは、教祖松本が道連れとして希望することであり、教祖松本の欲望に加担する結果になる。

 以上の理由により、当協会は、教祖松本の死刑確定を機会に、この12人については死刑判決としないよう、これが確定している場合は恩赦により減刑するよう、まして執行など絶対しないよう重ねて強く求める。

 平成18年(2006年)年9月15日

               日  本  脱  カ  ル  ト  協  会
          (The Japan Society for Cult Prevention and Recovery)
                            代表理事 楠 山 泰 道

法  務  大  臣   御 中

(当協会は、心理学者、宗教者、臨床心理士、弁護士、精神科医、宗教社会学者、カウンセラーそして「議論ある団体」の元メンバーやご家族らで構成されている130人ほどのネットワークである。破壊的カルトの諸問題、カルトに関わる個人および家族へのカウンセリング経験についての交流およびカルト予防策や社会復帰策等の研究をおこない、カルト予防ビラ、ビデオ、出版物といった成果を普及させ、また研修講座や公開講座を開いてきた。平成12年2月1日「オウム真理教脱会者の支援のための上申書」を、平成17年4月7日「オウム被告の死刑反対についての声明」を出している。設立1995年6月、旧称日本脱カルト研究会)

 

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